受け継がれるGold Wingの伝統
歴代モデルが体現してきた「Gold Wingらしさ」
──6代目のデザインを任された佐藤は、まず歴代モデルを徹底的に分析したと語ります。
佐藤靖博
常に新しいことに挑戦するのがHonda。その精神を、歴代のGold Wingも体現してきました。例えば、初代GL1000は革新的な技術とデザインでツーリングバイクの新たなスタンダードを確立しました。その後、ユーザーがアフターマーケットでフェアリングやケース類を装着するようになると、以降のモデルではそれらを標準装備として取り込み、ツアラーとして進化していきました。
佐藤
その後、GL1500(1988年)では、当時の四輪デザインの流れを映し出すようにシャープな線と面で表現されています。
佐藤
GL1800(2001年)では“King of Motorcycle”の名にふさわしい豪華装備と存在感を備え、Hondaを象徴するフラッグシップモデルとして世界に知られる存在となりました。
Gold Wingは常に時代のトレンドを映し出す。一方で根底には、変わらぬ本質が流れているんです。
変わらぬ本質と時代に応じた進化
──Gold Wingが長年愛されてきた理由は、その都度新しい挑戦を取り込みながらも、核となる価値を守り続けてきた点にあります。
佐藤
水平対向6気筒エンジンを中心とした構成や、ライダーとパッセンジャーの快適性を追求する姿勢は変わっていません。時代ごとに最新技術を取り入れながら、「Gold Wingらしさ」をどう守り、どう進化させるか。そこにデザイナーとしての真価が問われているんだと感じました。
次世代ユーザーに向けた挑戦
幅広い世代に愛される存在へ
Americadeで見えた課題
──プロジェクトに着手した佐藤は、まず現場に足を運び、ユーザーの声を直接聞くことからスタートさせました。
佐藤
ニューヨーク州レイクジョージで開催される世界最大級のツーリングイベント「Americade」に参加し、Gold Wingユーザーと交流しました。そこには初代から乗り継いでいるロイヤルカスタマー(強い愛着と信頼を持つユーザー)が集結。夫婦で2人乗りを楽しむ姿が印象的でしたね。彼らがこのモデルを育ててきたのだと実感できましたが、うれしさと同時に、次の世代に向けて変えていかなければならないという強い責任感も覚えました。
「先進性」と「多用途性」をどう実現するか
──このリサーチを通じて、開発チームが導き出した課題は2つありました。
佐藤
一つは「先進性の不足」。2001年登場の前モデルは十年以上フルモデルチェンジされておらず、仕様や装備が時代にそぐわないものになっていました。もう一つは「大型化による多用途性の不足」です。ロングツーリングに特化した結果、利用シーンが限られ、次世代ユーザーのニーズに応えられなくなっていたのです。
佐藤
この2つを解決するために、6代目では軽量でコンパクトなボディを採用し、街乗りやショートツーリングでも使える汎用性の高い性能を追求しました。同時に、先進装備やシャープなスタイリングによって、新しい時代にふさわしい姿を表現することを目指しました。
──ここで掲げられたスタイリングテーマが「Styling with Refined Sharpness and Tension(洗練された鋭さと緊張感)」。トップアスリートのように無駄を削ぎ落とした造形と、内に秘めた力強さを形にすることを追求したんです。
機能美とプレミアム感の融合
細部に宿るデザイン哲学
──6代目Gold Wingの開発では、車体の部位ごとに多くのデザイナーが関わり、細部に至るまでこだわり抜かれました。
佐藤
エンジンやフレーム、フロントフォーク、スイングアーム、コックピットはもちろん、エンブレムやCMF(色・素材・仕上げ)に至るまで、デザインチームは数えきれないほどの検討を重ねています。さらに、私たちは“見えない部分にも手を抜かない”ことを徹底しました。
佐藤
外装を外したときに現れる構造部品やワイヤーハーネスまでも、設計と協力してデザインの意思を入れ込み、ユーザーに「ここまで手を入れているんだ」と驚かれるぐらいの仕上がりにしています。そうした細部へのこだわりこそが、新たな価値を生み、Gold Wingのプレミアム性を支えているのです。
未来へ続く唯一無二のフラッグシップ
──GL1800の開発コンセプトは「King of Motorcycle」から「The Honda Premium Tourer」へと進化しました。これはモデルそのものの豪華さだけでなく、所有するお客様のライフスタイルにプレミアム性をもたらすことを意味しています。
Profiles

佐藤 靖博
モーターサイクル・パワープロダクツ
プロダクトデザイナー