プロダクトデザイナー・金森聡史氏(左)、コミュニケーションデザイナー・望月鞠花氏 (右)
プロダクトデザイナー・金森聡史(左)、コミュニケーションデザイナー・望月鞠花 (右)

ASIMOを起点に生まれたUNI-ONE
事業に向けた期待

UNI-ONE
UNI-ONE

――UNI-ONEは、どのような発想から生まれたモビリティなのでしょうか?

金森
新しいモビリティのあり方を考える、1人の技術者の発想から生まれました。以来、Hondaはモビリティメーカーとして、2000年に発表された二足歩行ロボットASIMOの開発で培った「Honda Robotics」の技術を応用し、1人乗りのパーソナルモビリティの開発に長年取り組んできました。2009年には人と調和するパーソナルモビリティU3-X、2012年にはUNI-CUBを発表。さらに翌年には人との親和性を向上させたUNI-CUB βが登場しました。ただ、これまではアイデアを形にすることはできても、事業化には至りませんでした。そこで、より人に寄り添い、ボーダレスな社会の実現に貢献する存在として、2022年にUNI-ONEを発表。チームにビジネス担当者も加わり、実証実験を経て量産化に向けて進化を重ね、今回の事業開始に至りました。

――大分県にあるサンリオキャラクターパーク ハーモニーランド(大分県速見郡日出町)への導入も決定しています。どのような点が期待されていると考えますか?

金森
サンリオハーモニーランドは、山を切り開いたようなところにあるテーマパークです。広大な敷地である上に高低差が60mあり、アトラクションへ向かうには自力で歩いていくか、エスカレーターを使うしかなく、バリアフリー化に課題を抱えていました。
また、3世代で訪れる方が多いため、お子さんや高齢者の方が疲れてしまい、目的のアトラクションに辿り着けないという悩みもあったそうです。

UNI-ONE
UNI-ONE

望月
そういった難しい立地条件でも、UNI-ONEがあればお子さんから高齢の方まで、また足腰に不安がある方でも使えるため、よりパーク内の移動がスムーズになり、満足度も上がるだろうという期待から導入を決めていただきました。

UNI-ONEに乗ることで平等に、そしてより自由に
生み出したのは二輪と四輪のデザイナー

UNI-ONE

――UNI-ONEはどのようなコンセプトで開発が行われたのでしょうか?

金森
UNI-ONEの前身であるUNI-CUB βは、日本科学未来館(東京)で7年間にわたり10万人以上の方に体験していただきました。しかし、小さな子が乗れないなど利用できる人が限られていたんです。

金森
そこで次のフェーズとして、「ただ移動できるだけでなく、乗る人が自由になり、今までできなかった仕事や体験にも挑戦できるモビリティをつくろう」といった想いから、2021年に本格的にUNI-ONEの開発をスタートしました。

UNI-ONE
UNI-ONE

――コンパクトなUNI-CUB βに対して、UNI-ONEはより安定感があり、リラックスして乗れる印象です。デザイン面でこだわった点を教えてください。

金森
UNI-CUB βは二輪の思想を色濃く反映した設計でしたが、UNI-ONEは四輪の安定性をベースにしています。一方で、左右への動きが大きくなるため、安全性を考慮する必要がありました。この手の乗り物は四角い形状になりやすいのですが、そうするとどうしても車椅子を連想させてしまいます。そこで、利用者にも周囲にも安心感を与える柔らかなフォルムを追求しました。

金森
特に大切にしたのは「人に寄り添い、乗る人の姿そのものを美しく見せること」です。シートは立位(立った状態)に近い姿勢を保てるようデザインし、背もたれも姿勢が崩れないよう調整しました。

UNI-ONE
UNI-ONE

望月
走行時に座面を15センチ上げ、相手の顔が7割ほど視界に入る高さにすることで、立っている人とほぼ同じ目線で会話ができるようにしています。車椅子の場合、目線の高さの違いから心理的な壁が生まれることがありますが、UNI-ONEはその課題を解決し、家族や友人など、周囲の人と自然にコミュニケーションが取れるようにしました。

――動いている姿を見ると、タイヤが見えないことで安心感があり、ぶつかっても跳ね返るので、歩行中にすれ違う人と少しぶつかってしまう時と同じ感覚でいられます。丸みのあるフォルムと相まって、危なさを感じさせませんね。

金森
ショッピングモールやテーマパークなど、人が集まる場所で使うことを想定しているので、「周囲から見ても安心できるデザイン」を意識しました。センサーで完全に回避するのではなく、軽い接触なら「ごめんなさい」で済むような、人間同士が自然にすれ違う感覚を機能とデザインに取り入れています。

UNI-ONE
UNI-ONE

――実際に乗ってみると、バランスボールのようにゆらゆらと動いているので、常に姿勢が整い、視点の高さも歩行時と変わらないため不安感が少ないと感じます。操作も直感的にできました。

望月
UNI-ONEはロボティクス技術を使って人の動きを常に読み取り、バランスを保っています。点字ブロックやケーブルなど、2センチ程度の段差も乗り越えられますし、坂道にも対応しています。また、危険を感じた場合は座面が自動で下がるなど、安全性も重視して設計されています。

――お2人は、具体的にどの部分のデザインを担当されたのでしょうか?

金森
私は、UNI-ONE本体のプロダクトデザインを担当しています。

望月
私はコミュニケーションデザインを担当しています。インターフェースの設計や、導入先で利用者がどのように体験するか、その全体像をデザインしました。

UNI-ONE
UNI-ONE

――ロボティクスの本質を捉えながら、新しいモビリティを生み出すために、工夫されたことはありますか?

金森
ASIMOのデザイナーに「Honda Robotics」の話を聞きに行きました。白いボディに黒い顔というASIMOのアイコニックなイメージは、人型ロボットとして幅広い世代に浸透しています。そのようなロボティクスの文脈を掬い上げながら、あくまで「人を中心に据える」ことを軸にどういう価値を提供できるかを考えて、UNI-ONEのデザインを形づくりました。

望月
日本のアニメ文化の影響を受けた人は、ロボットは角張って攻撃的な形を連想されがちですが、その逆で、Hondaらしい人や日常生活に馴染むロボットを目指しているんです。

――金森さんは四輪出身、望月さんは二輪出身のデザイナーです。それぞれの経験はどのように活きたのでしょうか?

金森
四輪のデザインでは、停車している時の佇まいなど、「静の美しさ」が重視されます。そういった考え方を反映したり、足元は四輪車のホイールアーチをイメージさせる形状にしたり、インテリアデザインの観点からはシートの形状や乗降時や走行時のユーザビリティを考えたりしてデザインしました。

望月
二輪のデザインは歴史もあり、安全性も重要なので制約も多く、その制約をいかに崩していくかを試行錯誤する必要があります。これまで「どうしたら新しくておもしろいことができるだろう」と考えてきた経験が、ゼロから考えていく必要があったUNI-ONEで、「どういうものにしたらより使いやすくなるか」という要件を決めるのに役立ったと思います。

UNI-ONE
UNI-ONE
実証実験の様子

――開発にあたって実証実験も行ってきたと思います。どのような点が課題に感じましたか?

金森
開発を始めた当初は、平坦な場所での使用を想定していました。しかし、実際の地面は改めて観察してみると傾斜や段差が多く、想定以上の坂道では登れないことがわかりました。

金森
社会で実用的に使えるようにするには、機体そのものの大型化の調整が必要だったのです。ただ、大きくすれば安定しますが、人混みの中で使うには不向きになりますし、小さすぎても誰もが快適に使えません。そのバランスを取るために、技術者とデザイナーが何度も侃侃諤諤の議論を重ね、できるだけコンパクトに見えつつ安定感のあるデザインを模索しました。

UNI-ONE
実証実験の様子

デザインの特長やUNI-ONEが大切にしているもの
モビリティデザインによるバリアフリー

UNI-ONE

――9月24日に販売が開始される、新型モデルのこだわりや特長を教えてください。

金森
新型モデルは、旧モデルのイメージを踏襲しながらも、よりコンパクトで扱いやすく、搭乗した人が自然と美しい姿勢に見えるようデザインを洗練させました。機能を優先するとスペース確保のため四角くなり、大きく重たい印象になりがちですが、浮遊感と丸みを持たせることで軽やかさを表現しています。

金森
座面を下げた時に広がる足のつき方も、安定感を残しつつなるべく中に入れてコンパクトにしたいということで、設計者と相談して突出感を抑えた収まりのいいデザインにしました。正面から見ると、身体を包み込むようなラウンド形状で安心感を与え、コンパクトな印象に。Honda「H」マークもより際立つデザインに仕上がりました。

UNI-ONE
UNI-ONE

望月
素材は塗装だと剥がれてしまうため、傷ついても大丈夫なようにPP(ポリプロピレン)を使い、耐久性やメンテナンスのしやすさも盛り込んでいます。また、白を基調としたフラットなカラーリングは、何もしなければ周囲に馴染み、ラッピングをすれば際立つ、自由自在なキャンパスとして見立てています。こうすることで、BtoBの事業として、商業的な活用にも柔軟に対応できるようにしています。

――2023年のモデルと比較すると、さまざまな点で引き算されていることがわかります。

金森
以前は座面脇に取っ手がありましたが、体の大きい方や足の不自由な方が乗るときに引っかかりやすいという課題があり、あえて取り外してフラットにすることでシート幅を広くし、スムーズな乗降を可能にしました。安全ベルトの位置も目立ちにくい場所に調整。さらに背中部分のファブリックも取り外したことで、よりスッキリとした印象になり、姿勢を保ちやすい高さになりました。これにより、リュックを背負って乗っても気にならないという利点も生まれています。また、横から見た時のボディバランスも整え、より美姿勢かつ安定して見えるようにしました。

UNI-ONE
UNI-ONE

望月
以前のモデルは操作ボタンが本体に付いていましたが、操作機能は外部に取り付けられるスマホに移行し、アップデートを重ねられるようにしました。これから導入されるさまざまな環境に合わせて対応する柔軟性を残しています。

――新型モデルの開発で印象に残っていることはありますか?

金森
実証実験を重ね、技術者と共に課題を見つけてきたからこそ、前のモデルをデザインした時よりもデザインの意図や価値を理解してくれたと思います。さらにUNI-ONEは決められた開発フローがなく、技術・デザイン・ビジネスの三者が協力しながら、事業化に向けてスピード感を持ち、妥協せずに開発を進められ、刺激的な時間でした。

UNI-ONE
UNI-ONE

望月
あくまで褒め言葉としてですが、もともと酔狂な会社だというイメージがあって(笑)。そこに魅力を感じてHondaに入社したのですが、本当にどんな結果が出るかわからなくても、夢を持って続けるところがあるんですよね。実際に形にしたからといって事業化に至らないことも多い中で、このチームは純粋性を持ち続けながら「これはやったほうがいいよね」とみんなが信じて進んでいく感じがすごく好きでした。我々が関わる前にもさまざまな技術者やデザイナーがバトンを繋ぎながら育んだプロジェクトでもあります。実際に、3歳から5歳向けのテーマパークへの導入の打診があった時も、「よし、子どもから年配の方まで乗れるモビリティにしよう」と大胆な決定をし、取り扱い説明書がなくても最低限の言葉が通じれば、簡単なレクチャーで乗れる仕様になりました。

UNI-ONEが創造する社会への期待

――改めてUNI-ONEは、どんな可能性を持つモビリティだと考えますか?

金森
以前、実際に足の不自由な方に乗っていただいた時、「ショッピングバッグを自分の手で持って買い物に行けるなんて、とても幸せなこと」とフィードバックをいただいたんです。これまでにあった不平等さを払拭し、福祉を超えて未来を創造するようなモビリティとして広がっていってほしい。そんな願いを託されたような気がしました。目的地で、誰もがワクワクする移動体験ができるようになることで、人々が無意識に持っていた壁も取り除かれていく。そんな可能性に満ちたモビリティだと思います。

UNI-ONE
UNI-ONE

――UNI-ONEが当たり前に走るようになれば、世界はどう変わると思いますか?

望月
これまでもUNI-ONEを活用し「AR水中探検」や、米国テキサス州オースティンで開催されている大規模カンファレンス&フェスティバル「SXSW 2024(サウス・バイ・サウスウエスト)」でXRモビリティ体験を提供してきました。そういったエンターテインメント文脈でも、人とモビリティの新しい関係が生まれていくのではないかと思います。

link AR水中探検:子供から高齢者まで、新しい体験を提供
UNI-ONE
1960年代の米国で「バイクはアウトローの乗り物」のイメージを払拭するためにつくられた広告とキャッチコピー(左)。「乗っている人の移動や活動を拡張させる」「Cubを選んだ人はイケている」。UNI-ONEもそんなCubに近しい存在になれるという想いを込めてオマージュされたスケッチ
UNI-ONE

金森
移動に不安を抱える方々に利用していただき、平等で自由な移動を実現することで、誰もが生き生きと活躍できる世界へと変化すると思います。この夏も、人中心の道路空間の創出に向け、大阪の御堂筋で初の公道での実証実験が行われました。もしUNI-ONEが社会実装されるようになれば、社会環境そのものも変わっていくかもしれない。単なるパーソナルモビリティを超え、社会のあり方そのものを変える可能性を秘めていると感じています。

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金森聡史

金森聡史

プロダクトデザイナー

望月鞠花

望月鞠花

コミュニケーションデザイナー