N-ONE e:が提案するEV時代の新たな価値観 日常を考え抜くことで日々のパートナーに

日々の喜びを広げるための名脇役へ

デジタル社会におけるクルマの居場所とは?

──N-ONE e:のグランドコンセプトは“e: Daily Partner”。EVに対してイメージされることが多い先進技術や未来的なデザインにはフォーカスせず、どこまでも日常に寄り添う姿勢を貫いたクルマです。このプロジェクトを率いるクリエイティブダイレクター・内野英明に、開発の裏側を聞きました。

N-ONE e:

内野
Hondaは、環境負荷を減らすために2040年までに全世界で販売車種の100%を電気自動車(EV)と燃料電池車(FCEV)に切り替えると宣言しています。現状、日本での普及率はまだまだ低いですが、国内でもこのN-ONE e:を皮切りに世間のEVに対するイメージを刷新し、普及を後押ししていきたいです。

ガソリン車でもEVでも、私たちは変わらずに運転する喜び・使う喜びを提供し続ける。それがHondaのDNAです。

──N-ONE e:のユーザーは、主に20代の若年層と50代のミドル世代。これまでNシリーズを支持してきたユーザーに寄り添い、電動化という新しいステージへの違和感やストレスを感じさせないよう、それぞれの日常を丁寧にすくい上げた設計思想が貫かれています。乗る人が自由に日々の喜びを広げていってほしい──そのために、チーム全体で、時代に応じた人々のライフスタイルや価値観の変化にも真摯に向き合ってきたと言います。

内野 英明

内野
特に重要視されたのがデジタル社会との共存です。誰しもスマートフォン一つで、いつでもどこでも人とつながれる時代になりました。また、人だけではありません。デジタルによって人はさまざまなものとシームレスにつながり、拡張し、アップデートし、日々の楽しさを得ています。クルマは、その文脈の中で新たな居場所を見つけなければいけません。様々な思索の末に導き出されたのが、“e: Daily Partner”というグランドコンセプトです。

その人の日常をさらに彩る名脇役のようなクルマを目指し、プロダクトとして「何を足すか」ではなく、「何を削るか」という観点から、クルマが本来担うべき役割を再定義する試みでした。

N-ONE e:
N-ONE e:

「ちょうどいい」を求めた引き算の応え

──ダッシュボードに並ぶ数多くのスイッチや大きなパネル。N-ONE e:では、そういったわかりやすい機能性や贅沢さはあえて削ぎ落とし、本当に必要な機能だけを見定めています。

一方で、専用のアプリ「Honda Total Care」(※)を使えばクルマの充電状態やエアコン設定のチェックのほか、寒い冬でも航続可能距離を延ばすためのバッテリー加温など、クルマまで向かわずともスマートフォンで操作が完結。スマートフォンと共存することで、生活導線の中に自然と組み込まれるスタイリングが意識されています。

※N-ONE e: は、N-VAN e: 同様に、スマートフォンアプリのHonda Total Careを、無料で使うことができます。クルマの充電状態やエアコン設定のほか、寒い冬でも航続可能距離を延ばすためのバッテリー加温など、クルマに直接行くことなく、スマートフォンで操作することが可能です。

N-ONE e:

内野
生活者の価値観は一様ではなく、ユーザーそれぞれの「ちょうどいい」にどう応えるのかが、今のクルマづくりには不可欠。だからこそ車内空間は余白が大切にされていますし、機能に関しても、何度もユーザーの日常をシミュレーションしながら無駄を削ぎ落としていきました。

私で言えば、スマートフォンにたくさんアプリをダウンロードしたところで、結局毎日使っているのはLINE、検索エンジン、サブスクのゲームアプリの3つだけ。クルマも「日常」という観点から見れば、あれもこれもと機能を追加しすぎずに必要最低限でいいですし、その方が気軽で快適なお出かけをサポートできるのではないでしょうか。“e: Daily Partner”というコンセプトに沿って、必要以上に主張せず、乗る人の暮らしや装いを引き立たせることを意識しました。

内野 英明

──時代を先取るスペシャリティクーペ「PRELUDE」や実用性と走りを両立したスポーティな「CIVIC」など、Hondaはこれまで、キャラクター性の強いクルマを生み出してきました。対してN-ONE e:は、クルマそのものの個性を適正化し、所有者を輝かせることを念頭に開発されました。そんなニュートラルな魅力こそが、N-ONE e:にしかないキャラクターになっています。

N-ONE e:
N-ONE e:

──日常の様々なシーンでナチュラルに調和しながらも、どこか目を惹く確かな個性を持つ。街中のカフェに停めても違和感がなく、ふとした瞬間に「なんだかいいな」と思わせる佇まい。派手ではないけれど、かといって周りの景色に埋もれることもない、「ちょうどいい存在感」を追求したと内野は振り返ります。

内野
N-ONE e:の個性は、サステナブルマテリアルを採用したデザインにもあります。クルマの顔となる部分にHondaの生産過程で廃棄されたバンパー材を回収・洗浄・粉砕まで行って再利用したり、フロアカーペットにはHondaの作業着を活用したり、かなり大胆で実験的な試みでした。

内野
特にバンパーリサイクル材は、色や粒子の見え方をコントロールできないため、1台ごとに異なる顔を生んでいます。あえてつぶつぶを残したバンパーリサイクル材は、正直「塗りかけのローラーみたいで中途半端だ」と社内で何度も突き返されましたが、アンケート調査を実施するなど、諦めずチーム一丸になって「今の時代を象徴する顔」として押し切りました。

N-ONE e:を日々使うことで、サステナブルな観点からある意味で社会や未来へ貢献していく。そんな中で、世界に2つとないバンパーによる個性に愛着を抱いていく。「N-ONE e:」のユーザーに、そのような冒険心を持ってもらえればと考えました。

N-ONE e:
N-ONE e:

──単なるリサイクルではなく、環境配慮と個性を同時に体現する新しいデザインのあり方はないか? それをモビリティ領域で表現したのが、N-ONE e:でした。その一方、人気シリーズとして変えてはいけないものと、EVとしての変化の狭間で、開発には苦労が伴いました。

内野
制約や条件は多かったですが、その負荷を逆手に取って、他にない個性を持たせられたと思います。Nシリーズでずっと評価されてきた使い勝手や乗り心地の良さは、電動になっても犠牲にしたくないし、むしろ拡張させてさらに良くしていきたい。しかし、電気自動車の駆動ユニットといったハードウェアはガソリン車と比べて非常に大きく、それをいかに従来のデザインに入れ込めるのかという制約がありました。

内野 英明
内野 英明

内野
ハードウェアが大きいぶん分厚くなりましたが、試行錯誤の結果、守ってくれそうな安心感や愛着のわく顔周り(フロントデザイン)にできたのではないでしょうか。色展開も、アイコニックで気分が上がる新色のチアフルグリーンを中心に、軽やかなニュートラルカラーも用意しているので、自分のお気に入りを見つけてもらえると思います。

──軽という限られたサイズの中で、必要なものだけを凝縮した小さな贅沢ともいえる設計。大きなクルマでは得られない機動性と、軽ならではの生活への溶け込みやすさを併せ持つN-ONE e:は、日常を大切にする方々にとって、ベストパートナーになることを目指します。

Profiles

内野 英明

内野 英明

オートモービル
クリエイティブダイレクター