電動二輪パーソナルコミューター「CUV e:」新たな電動二輪車時代の幕開けだからこそ「シンプル&スタンダード」を大切に

Honda Design Talk

電動二輪パーソナルコミューター「CUV e:」
新たな電動二輪車時代の幕開けだからこそ「シンプル&スタンダード」を大切に

2024年を「電動二輪車のグローバル展開元年」とし、多様な車種を発表しているHonda。その先駆けとなる電動⼆輪パーソナルコミューター「CUV e:」は、10月にインドネシアで発表されました。世界各国で「生活の足」として愛されるクラスの電動モデルとあって注目を集めるCUV e:。そのデザインに込められた、こだわりと想いを担当デザイナーが語ります。

素晴らしいデザインに国や地域の違いはない

──CUV e:はインドネシアでの発表となりましたが、そもそも同国での上市を前提として開発されたものだったのでしょうか?

いえ、CUV e:はグローバルに展開していくモデルで、最初に上市するのがインドネシアだということです。製品開発は日本で行いましたが、グローバルのデザインメンバーと一緒にプロジェクトを推進しました。インドネシアはもちろん、タイや欧州などからデザイナーが参加し、デザインを検討しました。

栗城 大亮

──それだけの規模でデザイナーが集まると、意見の相違が出てくることもあったのではないでしょうか?

意見にズレがあればそのたびに判断していかなければならないのですが、今回はコンセプトメイキングの段階でも認識や捉え方にズレはありませんでした。従来は国や地域ごとに好まれるデザインがあると言われていましたが、実は大きな違いがなかったのです。これが今回のプロジェクトを通して得た、最大の気づきでした。

ただし、最終的なアプローチには少し差異があり、議論しながら進めていきました。誰かの意見を押し通すという形ではなく、例えばタイと欧州の意見が違った場合は日本やインドネシアなどの他地域のメンバーが客観性を持って合意形成をしていく形で、誰かが不満を残したまま進めることはありませんでした。

CUV e:

──特に大きな議論になったポイントはありますか?

ICE(内燃機関)でいうと排気量110cc相当のモデルという、グローバルで人気があるクラスの電動コミューターです。注目を集めるモデルということは想定していましたので、どのようなダイレクションにすべきか、議論を深めました。

当初は「もっとフレンドリーな雰囲気に」「最近のトレンドでもある、遊び心のあるアドベンチャー感があったほうがいいんじゃないか」と、さまざまなアプローチを試みました。そのなかで、お客さまの生活に根付く製品であること、お客さまとしてもICEから乗り換えられる際に奇抜なデザインよりもシンプルなデザインのほうが選択しやすいという2つの面から、「ファースト電動コミューターとして、シンプルなスタンダードモデルを作ろう」という答えにたどりついたのです。

今回はタイのデザイナーが提案したスケッチが起点になっているのですが、シンプルな中にもICEとの差別化は図りたいという狙いがあったので、しっかりとした個性=アイコニックなデザインを実現したいと思っていました。

栗城 大亮

──そのスケッチを見ると、屋内や寝室といった住空間にコミューターが置かれるなど、生活の中に溶け込むような世界観が描かれていますね。

ASEAN地域の多くのお客様にとっては、二輪車は「ファミリーカー」の役割も担っています。ガソリン臭がしてもICEを屋内に駐輪するご家庭も珍しくありません。日本でもクロスバイクを土間の壁に掛けている方がいらっしゃいますが、それと同じようにASEAN地域の方にとっては生活に寄り添う存在。加えて、最近では配達業務のようにパーソナルでビジネスをされている方もいらっしゃいますので、そういった場面でも使っていただけるモデルを想定しました。

キャラクターラインと灯火器でシンプルななかにも個性を表現

──具体的に、シンプルさとアイコニックなデザインはどういった部分で表現されているのでしょうか。

まず全体的なサイズでいうと、無駄のない絞り込んだボディーになっています。毎日使っていただくことを想定し、押し引きする際にボディーが不要に大きいと使いづらいので、なるべくコンパクトにしました。

エクステリアのデザインは、実はデザイナーとしての葛藤がありました。シンプルなスタイリングを追求するためには「なるべくキャラクターラインを入れない、ボディーにも抑揚をつけすぎない」ということを意識したのですが、過度になると家電のような静的デザインになってしまいます。モビリティなので「動的デザイン」を意識しながら、少ないキャラクターでも動きを感じさせるスタイリングにまとめています。リニアな走りや出だしの加速が優れている点が電動二輪車の特徴ですので、走りを感じさせたい。ただ走りを意識しすぎると既存のICEと変わらないデザインになってしまうので、「本当はもう1本キャラクターラインを入れたいけれど我慢しよう」と、シンプルさを意識しました。

CUV e:

――CUV e:は灯火器周りに個性を感じます。

街中で走っている姿を見かけたときに、多くの人に「Hondaの新しい電動二輪車だ」と気付いていただくために、フロントとリアの灯火器に上下2本のライン発光という共通性を持たせることで、前後どちらから見てもCUV e:の個性を感じられるようにデザインしています。

また、灯火器にはデザイン上のカッコよさももちろん重要な要素ですが、一番大事なのは被視認性に寄与すること。特にバイクは混合交通の中で気付かれにくい車両のため、特徴的に光ることにより、対向車などに気付かれやすくなります。今回の灯体はコンパクトにしていますが、横方向までラインを発光させて車幅感を演出しています。

CUV e:

──CUV e:は「Honda Mobile Power Pack e:」が2個搭載されています。それはデザインにどう影響していますか?

従来のICE搭載車と比べると、シート下にHonda Mobile Power Pack e:を2個搭載していますので、収納スペースが制約されてしまいます。そのなかでも万国共通で必要とされる雨合羽と書類の収納スペースを確保したうえで、ICE搭載車同等のコンパクトなパッケージングを実現しています。それらのボリュームを守りながら、無駄のない絞り込んだボディーになっています。

Hondaのデザインアイデンティティと電動二輪車の未来

──そうした機能美とカッコよさの両立というのがHondaのデザインアイデンティティですが、どういったところに込められていると感じますか?

デザインでいうと「Fit your sustainability」というキーワードがある中で、特に今回のモデルでは「Simplicity and Emotion」を目指しました。コンパクトにしつつ、シンプルな表現だけにしていくと個性が弱まってしまうので、灯火器やスタイリング、パーツ構成を特徴的にすることで、アイデンティティを確立できたと考えています。

CUV e:

──今年、Hondaは電動グローバル元年として、多様な電動二輪車を展開し始めています。今後、電動のコミューターが増えていく未来が想定されますが、ご自身としてはどういったデザインを生み出していきたいとお考えですか?

ICE製品がゼロになる社会はまだまだ先の話です。今後電動二輪車がICEと同じように普及してきたときに、どういった新しい価値をお客さまに提供できるか。遊び心があるものなのか、あるいはビジネスに寄ったものなのか、そういったところでアプローチはどんどん広がります。

当面は、ICEとEVが共存していく中で、デザインとしてもどう違いを生み出していくかが課題になるはずです。ICEとEVの大きな違いでいえば、やはりエンジンの有無。EVはバッテリーとモーターで駆動しますので、レイアウトの自由度が上がる可能性もある。その自由度により、さらに使い勝手が良いものや、より特徴的なデザインが実現できると期待しています。

栗城 大亮

プロフィール

栗城 大亮

栗城 大亮

e-プロダクトデザインスタジオ
チーフエンジニア

2006年入社。モーターサイクル・パワープロダクツデザイン開発室に所属し、スクーターから大型FUNモデルまで、幅広いモデルのデザインを手掛ける。

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