目指すのは世界一。Hondaの技術を結集した車いすレーサーの開発秘話・製造に密着! 目指すのは世界一。Hondaの技術を結集した車いすレーサーの開発秘話・製造に密着!

「レースで勝ちたい。」
モビリティ開発の根底にある
Hondaの熱きスピリット

Hondaは、これまでさまざまなモビリティの開発を行ってきました。開発の根底に常にあるのは、「どの分野でも1番になりたい」というチャレンジングスピリット。特にレースで勝つことは高い技術力の証明でもあり、頂点を目指すからこそ、技術も、そして人も磨かれる。それは車いすレーサーも同じです。Hondaは長年、国際レースで勝てるレーサーの開発に力を注ぎ、勝利を目指して日々挑戦を続けるアスリートたちを応援し続けてきました。今回は、そんな車いすレーサーの製作の裏側にせまります。

Hondaが培ってきた技術と想
いを結集した
「Honda 車いす
レーサー」

「Honda車いすレーサー」は、F1マシンやHonda Jetで培ったカーボン技術を活かした陸上競技用の車いすです。「勝利の笑顔をアスリートに届ける」をコンセプトに開発されたモデル
「翔<KAKERU>」は、先代モデル「極<KIWAMI>」からバージョンアップを図り、従来にない剛性と軽量化を実現。また機能だけではなく、美しさを兼ね備えたモデルとして、2021年にはグッドデザイン賞を受賞しています。

Hondaが培ってきた技術と想いを結集した Hondaが培ってきた技術と想いを結集した

FEATURE 01
各アスリートの体格差や
障がいに応じた
乗車ポジションに対応できる
オーダーメイドのフレーム
FEATURE 02
ステアリング周辺パーツを
フレーム内に格納し、
流麗な外形とした
ビルトインダンパーステアリング
FEATURE 03
トップスピードを上げ、
アスリートの闘志をかき立てる
ウィング形状の
カーボンモノコックフレーム

さらなる進化を目指し、改良を続ける さらなる進化を目指し、改良を続ける 開発者インタビュー

開発の裏話ー1
「翔」という壁をどう超えられるか。新たなチームを組んで開発がスタート

「翔」が誕生したあと、実は開発もやり切った感があり、「翔」を完成系としてそのままにしておこうという考えもあったんです。ですが、他社もクオリティの高いものを出してきているし、翔の開発に関わった先輩方に負けたくないという思いもあり、新たにチームを作り直して開発しようと決め、動き出したのが約2年前でした。新しいチームを作る時に考えたのは、「新たなチームで何ができるか」ということ。過去をリスペクトしつつも、それだけでは現状を変えられません。何がベストかを問うため、ゼロべースで開発をスタートさせました。

本田技術研究所 先進技術研究所
開発総責任者 池内康

左から構造設計担当の五味哲也、LPL(開発総責任者)の池内康、デザイン担当の田中純 左から構造設計担当の五味哲也、LPL(開発総責任者)の池内康、デザイン担当の田中純
左から構造設計担当の五味哲也、LPL(開発総責任者)の池内康、デザイン担当の田中純
ホイールの回転の様子や進行角度など、屋外で細かな確認を行います ホイールの回転の様子や進行角度など、屋外で細かな確認を行います
ホイールの回転の様子や進行角度など、屋外で細かな確認を行います

開発の裏話ー2
2020年モデルより10%
以上もの軽量化を実現した「翔」の開発

「翔」はフルカーボンボディの軽量でありながら剛性が高いレーサーです。カーボン素材の選定や、どこを厚くし薄くするか積層パターンの設計などを行い、2020年モデルよりもカーボン部分で10%以上もの軽量化を達成しています。
軽量化できたことで選手の走る負担を軽減できただけでなく、パフォーマンスを上げるために必要なアイテムを取り入れたいという選手個々の要望に応えることができました。シート状のカーボンを何枚も重ねて作っており、部分的に厚みを増やすことは非常に難しいのですが、製造委託先である八千代工業さんの高い生産技術や、ノウハウがあったからこそ実現できたのだと思います。また、設計ではHonda Jetの技術が採用されており、これは車いす以外の分野のノウハウも持つHondaならではの強みです。

構造設計担当 五味

レーサー完成後も、契約選手からのフィードバックを反映し、研究開発は常に続けています

二輪で培った空力の技術を活かしながら、一人ひとりに寄り添った開発の難しさ

田中:
バイクに乗った時、人は直接風の影響を受けます。風が人に当たらないように車体側で空気を弾き、いかに空気抵抗を減らすか。その空力性能を向上させることが、燃費の良さやスピードの向上につながります。車いすとバイクは「人が乗って完成する乗り物」という点で共通するプロダクトです。二輪の空力の技術を車いすレーサー開発に活かし、また車いすレーサー開発で得られた知見を二輪開発のヒントにすることもできます。
池内:
車いすレーサーとバイクの違う点を挙げるとすれば、車いすレーサーのエンジンは「人」であることです。そのため、開発においては「どうしたら人が最大限の力を発揮できるか」を考えることが大事です。レーサーはオーダーメイドですから、乗れるのは選手本人だけです。各選手に走行時の感覚を共有してもらいながら、漕ぎ力(車いすを漕ぐ時の力の入れ方や方向)を測定し、空力にも考慮して選手が最大限の力を発揮できる最適解を見つける。アスリート一人ひとりの個性を活かして車いすレーサーの開発をすることが難しさでもあり、同時にやりがいでもあります。

開発者として守りたいのは受け継がれてきた「高品質」

五味:
開発にあたり大事にしたいのは、今まで受け継がれてきた「高品質」を守り続けることです。高品質であることは、選手に自分の最速タイムを超えるチャレンジに安心して挑んでもらうための保障のようなものだと思います。おそらくアスリートは走行時、ほとんど生身の状態で走っているような感覚なのではないでしょうか。そんな中で不安が少しでもあれば力を出し切れないでしょう。「Hondaのレーサーなら安心して100%の力が出し切れる」と言ってもらえる、選手のメンタルを支える高品質のレーサーをつくりたいと思っています。

目指すのは、憧れられ、
世界を舞台に戦える車いすレーサー

池内:
「いつか乗ってみたい」と車いす競技にチャレンジするきっかけとなるような、憧れの一台を作りたいです。目標はレースでの優勝。そうした活躍を背景に、Hondaの車いすレーサーが車いす陸上を盛り上げる一助となればうれしいです。
五味:
「新しい車いすレーサーは頼んだよ」と先代からバトンを引き継ぎました。だから、革新的なフレームを出し続けて、車いすレースへの世間の注目度を上げ、競技人口を増やす。それを目指したいです。
田中:
アスリートは、自身が選んだレーサーとともにキャリアを積みます。彼らの期待を上回るレーサーを作るのが我々の仕事。「これならいける!」とアスリートに自信を与え、数あるレーサーの中から選ばれるレーサーを開発できればと思っています。いつか世界で戦うアスリートの方々とHondaの車いすレーサーが表彰台を独占する姿を見たいですね。

製造工程八千代工業にて製造

step1

採寸

採寸は3次元スキャナーを使用。選手がレーサーに乗った状態で、360度周囲から撮影し、3次元データを作成します。

1.1設計

お尻や膝のシート位置や身体を固定するベルトの位置など、選手の好みや要望に応じて、細かい調整を行い、設計します。
またレーサーの形状はスキャンデータを基に選手毎の身体に合わせてモデリングしています。
個々に形状が異なるため、解析ソフト使って車両毎に強度確認も行っています。

step2

型製作

設計した3次元形状をもとに、石膏型を製作します。

step3

レイアップ(貼り込み)

カーボンシートをドライヤーで温めながら伸縮させつつ、石膏型に貼りこみます。カーブ部分に空気が入ったり皺が寄らないように貼るには職人技が求められます。シート1枚ごとに重ね貼りするたびに真空引きします。
カーボンシートは硬化してしまう素材の為、
1週間以内に作業を終える必要があります。

step4

バック(真空引き)作業

石膏型をぴったりと合うように合体させ、再度真空引きをして圧力をかけてカーボンシートと型を密着させます。

step5

窯焼き

真空バック状態の型をオートクレーブと呼ばれる圧力釜に入れ、さらに真空吸引しながら内と外から加圧し、100℃以上に加熱することでカーボンシートを硬化させます。

step6

脱型

硬化、成型が終わったら、型からレーサーのフレームを取り外します。固着しているので剥がすには力が要りますが、割れやヒビが入ったりしないよう慎重に作業します。

step7

トリム・穴あけ作業

専用の工具を使って不要なバリを削ったり、部品を取り付けるための穴あけ作業などを手作業にて行います。
1点もののため、一つのミスも許されない重要な作業になります。

step8

接着、部品取り付け

フェンダー部などを接着したり、ステアリングやブレーキ、ホイールなど各種の部品を取り付けます。

step9

完成

アスリートに勝利の
笑顔を、
世界に感動を。

自分の可能性を信じ、ひたむきに戦うアスリートたちの姿は、
ときに私たちに、想像を超える感動を与え、
夢に向かってチャレンジすることの素晴らしさを教えてくれます。
その素晴らしさ・感動をひとりでも多くの人に伝えたい。
そして一歩踏み出そうとする人の背中を押したい。
そんな想いから、Hondaは1秒でも速く走れるレーサーの
開発をはじめとする様々なサポートを続けています。
レースに勝つことでアスリートに笑顔を届け、世界中に感動を届けられる様、
Hondaはこれからもチャレンジを続けていきます。