2025年3月Honda Koreaはバイクユーザー向けの安全運転教育施設「Honda Education Center」を設立しました。創業以来「人命尊重」と「積極安全」の考えのもと、安全技術の開発と安全運転教育に注力してきたHonda。2050年に全世界で、Hondaの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者ゼロの実現を目指します。今回は、行政機関公認のバイクユーザー向け安全運転教育施設がなかった韓国で、どのように施設開業を実現したのか、企画推進担当者に話を聞きました。
Honda Korea Co., Ltd.
Honda Education Center
企画推進担当者
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JungWoo Lee
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韓国にバイクの安全運転教育施設が必要な理由
Hondaは1960年代から70年代にかけて、モータリゼーションの進展に伴い交通事故が深刻な社会問題となっていたことを受け、1970年に安全運転普及本部を設立。安全な製品をお客様に届けることに加え、その製品の正しい知識や安全な乗り方もあわせて提供することが企業の社会的責任であるとの認識からでした。
バイク、クルマの販売店でお客様にFace to Faceで交通安全を啓発する「手渡しの安全」と、専用の施設で危険を安全に体験頂く「参加体験型の実践教育」を柱に活動を継続してきました。加えてライダーの危険予測能力を高める「ライディングシミュレーター」などの教育機器を開発。さらに安全デバイスにおいては、バイク用エアバッグやABS(アンチロック・ブレーキ・システム)などの先進技術を開発・搭載することで、事故発生時の被害軽減に寄与してきました。
また、世界 43 の国と地域で交通教育センターでの講習や、インストラクターの養成を積極的に行っています。先進国では「Honda SENSING(ホンダ センシング)」などの安全運転支援システムの適用率を高め、安全技術で事故低減を目指す一方、新興国では安全運転の普及活動を強化するなど、地域特性にあわせた取り組みを行っています。
交通事故死者ゼロを目指しながら自由な移動の喜びの拡大に向けた取り組みの一つが、韓国に設立された安全運転教育施設である「Honda Education Center(以下、交通教育センター)」です。
日本では、バイクの排気量ごとに免許が分かれており、中型車や大型車に乗るためには専用の免許を取る必要があります。韓国ではバイクの免許が2種類しかありません。クルマの付帯免許かバイク免許です。クルマの付帯免許で乗れるのは125cc(出力制限なし)までのバイクですが、バイク免許を取得すれば125ccを越えるすべてのバイクに乗ることができます。免許取得時に教習所で使用したバイクの排気量と、免許取得後に選べる排気量との間に大きな差が生じやすく、結果として十分な運転技術を身につけないまま路上に出てしまい、事故を引き起こすケースが少なくありません。そのため、免許取得後にユーザーが実際に乗ることになるバイクの排気量に応じて、適切な運転技術を習得できる施設が必要だったのです。
韓国でHondaのバイクは大きなシェアを占めており、メーカーとして韓国のバイク文化発展を先導していく使命があると考えています。これまでもディーラーと一丸となってお客様への安全運転教育に取り組んできました。安全運転教育を実施する場所として、広い駐車場を一時的に利用できると良いのですが、駐車場を駐車目的以外に使用することを禁止する法律が壁となりました。
また、韓国では「安全運転の実技講習を行う施設」の法的な定義もなかったため、この条件をクリアすれば設立できる、というものでもありませんでした。どうすればより多くの方に安全運転教育を受けていただけるかを社内で検討した結果、行政機関の公認を受けた安全運転教育施設の設立を目指すことになったのです。
道なき場所に道を作る。行政機関の公認獲得に向けた前例なき取り組み
行政機関公認の交通教育センター設立のため、敷地選定、建設工事、事業者登録という3つのステップがありました。
敷地選定については、近隣住民への騒音の心配がないことに加え、首都圏からのアクセスの良さも重要であるため、およそ3カ月をかけて、物流倉庫だった敷地を選定しました。
次に建設工事です。元々あった1階建ての倉庫と1,200坪相当の駐車場で構成された敷地を安全運転教育が可能な教育研究施設にリモデリングし、行政機関より公認を得る必要がありました。
安全に配慮された広々とした練習場
韓国では、民間企業による学習塾や予備校、音楽教室、語学スクールなどの教育機関の起業・運営を規制する「学院法」があります。この法律に基づき「学院業」と認定されれば、行政機関公認の教育機関として運営できますが、「バイクユーザーのための安全教育施設=交通教育センター」は前例がなく、どのように申請を進めればよいのか、明文化されたものがありませんでした。
まず、学院業の登録に何が必要なのかを知るため、法律の専門家に相談しました。学院法に基づき、交通教育センターが教育機関として行政機関の公認を得るためには、施設の面積・安全性・防火設備などの物理的条件をクリアする必要があることが分かりました。そこで、法律の専門家と市役所の建築課と協議を重ね、建物の構造補強や、消防法に基づく電気・消防設備、人員構成などを決定し、登録申請の準備を進めていきました。
そして、3つのステップのなかでも最も苦労したのは、建設工事と同時進行で行われた事業者登録でした。
自治体にある地域教育支援庁という機関で最終的な学院業登録をしてもらうのですが、地域教育支援庁にとっても初めてのケースだったため、学院業としての登録が可能かどうか、上部の教育機関への確認が必要と連絡を受けました。その後、上部の機関の担当者からは、同じく前例がないからと期待する回答が得られませんでした。そこで、Hondaが構想している交通教育センターが学院業に該当することをご理解いただくため、さらに上の最高機関である教育部に申し立てをするまでに至ったのです。
約2カ月の検討期間を経て、ようやく学院業として登録できました。もしも学院業の公認が得られなければ、行政公認の『安全運転教育施設』という前提が守り切れなくなるため、事業自体を中断することになっていたかもしれません。
バイクユーザーへ安全運転を広めるパイオニアに
多くの苦労を乗り越えて設立された交通教育センター「Honda Education Center」の強みは、55年間にわたるHondaの安全運転普及活動のノウハウを盛り込んだカリキュラム。また、日本でHondaのインストラクター研修過程を修了した教官4名が勤務しており、実績を積み重ねてきた日本の交通安全教育をベースに、韓国の交通事情に合わせた教育の提供が可能となりました。
交通教育センターの開設にあたり、プロジェクトメンバーは日本の安全運転教育施設である「鈴鹿サーキット交通教育センター」「ホンダレインボーモータースクール」を訪問し、施設設計や運営体制について多くの知見を得て、センターに反映しました。例えば、お客様の安全については、万が一の衝突に備えたバリケードを設置するとともに、受講中に転倒した場合に備えて受講車両に安全バンパーを装着するなど、身体的なダメージを最小限に抑える工夫を採用。また、教習の合間に休憩できるスペースをコースの近くに設置するなど受講者が集中力を維持しやすい設計としました。
さらに、オンラインで手軽に予約や決済ができる点も好評です。受講後のアンケートでは再訪問意向と知人紹介意向が99%と、高い満足度を誇ります。
受講者が快適に施設を利用できるよう、休憩室や講義室、保護装備などの充実した設備が揃う
Hondaのインストラクター研修過程を修了した教官たち
お客様にとって、安全運転教育を受講するにあたり、法的に認められた安全な環境であることは大前提です。そこで受講されているライダーの皆さんのとても幸せそうな表情や反応を見ると、私も幸せな気持ちになります。
安全運転教育活動は継続することが何より大切です。より多くの方に受講いただくことで、Hondaのグローバル目標である『2030年にHondaの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者半減、2050年交通事故死者ゼロ』の実現に貢献していきたいです。
Hondaでは事故のない未来を目指し、「安全」への取り組みを一つずつ進めていきます。
韓国のバイクの市場では、約70%を配達用バイクが占めており、配達ライダーの信号違反、スピード違反など法規違反の多さから、社会的にバイクに対する印象が良くありません。韓国政府の交通事故防止の取り締まりなど多くの対策により、バイク事故の死亡者数は減少傾向にありますが、事故の発生件数は大きくは減少していません。