Honda Design Talk
トミカ55周年記念モデルのデザインを社内コンペで制作
空間デザイナーならではの視点で描くCIVIC TYPE R
トミカ発売55周年を記念して、各メーカーがデザインする特別なモデルが発売されます。Hondaからは、オリジナルデザインの「CIVIC TYPE R」が登場。このデザインは、社内のコンペで決定しました。小さなトミカに込められたデザインへの想いと挑戦。その背後には、デザイナーの切磋琢磨による、試行錯誤と創造力がありました。
社内コンペでデザイナー同士が刺激し合う
──帯川さんは、普段プロダクトデザインを担当されていませんが、どんな領域を担っているのでしょうか?
私はもともと空間デザイナーを務めた後、中途採用でHondaに入社しました。普段はコミュニケーションデザインを担当し、ブランディングの観点からプロダクト以外のさまざまなデザインを手掛けています。先日ラスベガスで開催されたCESのブースデザインにも携わっているんです。
──今回のトミカ55周年記念モデルは、社内コンペでデザインが選ばれました。このような試みは普段から開催されているのでしょうか?
帯川
Hondaのデザインセンターでは、普段からコンペ的な競い合いで製品のデザインが作られています。今回は、トミカ55周年を記念した特別プロジェクトで、通常のデザインとは異なるアプローチが求められました。トミカサイズでのスケール感、遊び心、そしてHondaやCIVIC TYPE Rの持つ歴史と独自性をいかに表現するかが重要なテーマでした。
帯川
私は、空間デザインの経験を活かして、新しいチャレンジに挑みたいと思って参加しました。トミカはクルマそのものを象徴するプロダクトであり、幅広い年齢層に愛されています。自分のデザインがどのように評価され、どれほど実際の製品として機能するのかを確認したかったのと、小さなモデルでありながら、実車の本質をいかに凝縮できるかという課題に魅力を感じました。
──今回のコンペに参加して、どのような刺激を受けましたか?
帯川
アイデア展開にあたり、周囲のデザイナーとアイデアを見せ合ったり、互いにアドバイスしたりしながら、自分のデザインを進めていくことができました。他のデザインと比較しながら自分の作品を磨くプロセスが非常に有意義だったと思います。こうした環境は、通常の業務ではなかなか得られない貴重な体験で、他の参加者のアイデアに触れることで多くの刺激を受けました。例えば、グラフィックデザインを中心にした提案や、実車にはない大胆なカラーリングなど、これまで自分が考えたことのない方向性を知ることができました。
ダイナミックさと高級感が共存し、子供から大人まで楽しめるデザイン
──今回のデザインコンセプトについて教えてください。
帯川
CIVIC TYPE Rは私にとって憧れのスポーツカー。速くてカッコいいクルマです。これをどう表現するかに悩みながら、「速さと質感の融合」をテーマにしました。実際のクルマは走っている姿も含めてデザインされるものですが、トミカは静止している状態で見ることがほとんどです。止まっていてもスピード感を想起させる流線型のデザインや、高級感のあるカラーリングと質感に重点を置きました。特に、ボディー全体をシンプルかつダイナミックに見せるため、鮮やかなブルーを基調とし、アクセントとして黒のラインを加えました。また、質感に関しては、通常のトミカの光沢感とは異なり、マットな仕上げにこだわりました。これによって、子供たちはもちろん、トミカ収集を趣味にする大人も含めて、手に取ったときに特別感を味わえるよう工夫しました。
──デザインを進める上で特にこだわった点は何ですか?
帯川
サイズが小さいトミカでは、実車のように細かいディテールをすべて再現するのは困難です。そのため、全体の印象を際立たせるために、ダイナミックに見せていくデザインを心がけました。カラー選定では、Hondaといえば赤というイメージがあると思いますが、鮮やかなブルーに挑戦しました。このブルーは、社内のカラー担当の方に塗料の配合を変えながら何度もサンプルを作成してもらい決定しました。青をイメージカラーとする他メーカーのクルマも多いので、それらの色も研究しながら、独自性を出せるブルーを追求したんです。それを、マットな質感と組み合わせることで高級感を演出しました。
カラーデザイナーと協力し、膨大な数のサンプルからこだわりのブルーを選び抜いた
──サイドの「55」や天井の「R」など、大胆な文字の使い方も目を引きます。
帯川
お客様の手に渡ったときに「見たことがない」と思ってもらえるようなデザインになるよう努めました。カーデザイナーではない私が手掛けるデザインなので、ディテールにこだわるよりは、全体のイメージとバランスの整合に注力しました。とは言っても、「55」と「R」のロゴの曲率を合わせるなど、シンプルながらディテールにちゃんとこだわっているんです。トミカさんのレギュレーションもあって採用されませんでしたが、商品のパッケージデザインも、自分なりに考えたものを作ってみました。商品がお客様のもとへ届くためのすべてをデザインするのが、コミュニケーションデザイナーらしい部分だと思っています。
今後の展望について
──ご自身のデザインが採用されたときは、どんな気持ちになりましたか?
帯川
率直にうれしかったですね。このトミカは多くの台数が生産されると聞いていますが、空間デザインでイベントブースなどを制作しても何万人も来場するブースってなかなかないので、それだけ多くの人に自分のデザインが届くことがうれしいです。私がHondaに入社して2~3か月の頃にこのコンペがあったので、入社して間もない自分のデザインが通用するか不安だったのですが、自信を持つことができました。
──この55周年記念モデルのデザインを実車にもラッピングして再現されたんですよね?
帯川
ラッピングシートでこのブルーが出せるかが一番の苦労でしたが、やはり大きなサイズで見たときにはカラーの重要性が増してきます。トミカサイズでは、あえて細部のあしらいなどは無視してダイナミックさにこだわったので、実車にしたときには物足りなさも出てくるかもしれないと思っていましたが、カラーの存在感で満たされた印象です。このプロジェクトをきっかけに、クルマのことをさらに勉強することができたので、今後のキャリアに向けてもいい機会に恵まれたと思っています。
──今回の取り組みが今後どのようなコミュニケーションにつながると考えていますか?
帯川
デザインを通じてユーザーとの新しいつながりを構築できると考えています。特に、トミカのように子供から大人まで幅広い層に届くプロダクトでは、一つのデザインがもたらす感動が非常に大きいと感じました。この経験を通じて、より多くの人に共感されるデザインを目指し、ブランドのメッセージを効果的に伝える手段としてデザインを活用していきたいです。
帯川