Honda Design Talk
電動二輪車「EM1e:」が2024年レッド・ドット・デザイン賞を獲得
シンプル・クリーンがもたらした普遍性とは
「シンプル・クリーン」に込めた想い
―渡邉さんはこれまでどんなキャリアを歩まれたのでしょうか?
ずっと二輪車のデザインに携わってきました。主にカラーリングやスタイリングを担当し、これまでに米国と中国に駐在して経験を積んできました。最初はいわゆるFUNモデルを多く担当し、クルーザータイプの大型バイクやロードスポーツモデルのデザインに関わってきました。
中国では特にスクーターやコミューターといった実用性を重視した製品に携わり、都市部での利便性を意識したデザインを学びました。EM1e:も、そうした経験を活かした製品の一つです。EM1e:はベースモデルを中国で開発していますが、私はその担当マネージャーとしてデザインをリーディングしました。
―EM1e:のデザインコンセプトは何でしょうか?
渡邉
このモデルは「シンプル・クリーン」をコンセプトに、日常生活に溶け込むスタイリングを目指しました。電動二輪車としての先進性を強調するデザインも考えられると思います。しかし、パーソナルユースの領域では、多様なお客様の生活にマッチするシンプルでクリーンな造形や親しみやすさが重要です。そのため、派手な要素を控え、「シンプル・クリーン=冷たい感じ」にならないよう配慮しました。親しみやすさとフレンドリーさを意識し、視覚的にも手に取ったときにも温かみを感じられるデザインを追求しました。
―Hondaの電動パーソナルコミューターであるEM1e:は、どのような都市でどのように使われることをイメージされましたか?
渡邉
中国でスタートしたプロジェクトでしたので、自然と中国の街並みが頭にありました。ただし、特定の地域に限定せず、広く利用されることを意識しました。これにより、EM1e:は結果的にグローバルな展開を成功させることができたと思います。
デザインで語る「使いやすさ」と「高品質」
―特にどの部分が「シンプル・クリーン」を体現していると思いますか?
渡邉
形状に関しては、やさしい印象を保つために視覚的な攻撃性を排除しています。たとえば、直線基調の中にも丸みを持たせた構成は、親しみやすさを感じて頂けるかと思います。
また、適度に広い塗装面積を確保することで、製品全体に統一感と高品質な印象を与え、視覚的な満足感を高める効果を狙っています。このバランスが「シンプル・クリーン」の根幹を支えています。
細部にもこだわり、後部のグラブレールは二重構造とし、車体と同色にすることで、車体との一体感と実用性を確保しています。
―ヘッドライトのデザインについても教えてください。
渡邉
ヘッドライトには、奇抜さを求めるのではなく、「シンプルでも退屈しない」重要なアクセントになるようにデザインしました。
毎日の相棒としての信頼性
―どんなユーザーにも使いやすい普遍性を目指しているように感じます。その点で意識された部分は?
渡邉
外観ではユニセックスでニュートラルなデザインを心がけました。同時に、膝周りの空間やシートの高さ、フロアサイズなどの調整も徹底的に行いました。これらの細かな工夫により、性別を問わず、幅広い層のお客様に長く使っていただけるデザインや実用性を実現できたと考えています。
―Hondaのコミューターらしさについて、どのように表現されましたか?
渡邉
Hondaのコミューターは、人を中心に考えた使いやすさ、乗りやすさを大切にしています。EM1e:でも、毎日使うことを前提に、「気を使わない」使いやすさを追求しました。たとえば、街中でも取り回しのしやすい車体サイズとなっていますし、足元スペースの広さは、荷物を載せたり、さまざまな体格の人が快適に足を置いたりできるよう配慮されています。
また、車両全体のデザインにおいては、「良い意味で目立ちすぎない」デザインを心がけました。普段の生活に自然に溶け込みつつ、使うことで所有感を満たしてくれるようなバランスを意識しています。
コミューターはお客様の生活を支えるモビリティです。あくまで人を主役とし、使用するお客様が毎日安心して気軽に使える信頼性や快適性を備えることが、Hondaのコミューターとしての価値を高めると考えています。
EVデザインで変わること、変わらないこと
―電動車ならではの課題や楽しさはありましたか?
渡邉
ハードウェアから来るデザインの違いは確かにありますが、二輪車を作るという本質的な部分での違いはありません。車体構成に関しては、基本的に従来のガソリン車と近い構成となっています。
もちろん、パワーユニットが変わることで、デザイン上の新しい要件が生じることはあります。今回のプロジェクトでは、法規や制約などEVならではの知識を深めるための勉強も必要でした。例えばメーターの表示機能はEV特有の情報をいかに見やすく表示するかを検討し、最適な配置やサイズを模索しました。
渡邉
しかし、根本的なデザインの考え方、つまり「使いやすく、親しみやすい二輪車を作る」という部分は変わりません。EVであろうとガソリン車であろうと、デザイナーとして目指すべき目標は一貫しています。
―今回のデザイン・開発を通じて得られた発見や学びはありますか?
渡邉
要件に応じて製品を作るという本質的な部分は、デザイナーとして変わらない姿勢です。今回の経験を通じて、細かな制約の中でもユーザーにとっての使いやすさを追求することが、最終的に大きな成果に繋がると再確認しました。デザイナーとして、これからもそのプロセスを楽しみながら取り組んでいきたいと思います。
渡邉